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おぼえがき

おたくのひとりごと@sweetberrykissC

『愛してる』の失われた世界へ

映画

※2015.12.6観劇

伊藤計劃原作の映画「ハーモニー」を見た。

過去・現在・未来で三部作の構成ということで、本当なら三作目としての公開のはずが、二番目に。

やっぱりどうせなら順番に見たかったなーーーーと思うけど仕方ない。

以下ネタバレあり。

 

約二時間、モノローグが多いので、たっぷり沢城みゆきの声が聴ける。

沢城みゆきが好きな人にはもうそれだけで堪らない時間かも。

実際私は堪らなかった。

そしてなにより、上田麗奈のミァハが、耳をすり抜けて脳みそに滑り込んでくるような声をしてた。

あの声で「このからだは自分ひとりのものなんだって、いまここで証明して」って囁かれたら気が狂いそう。

「トァンはさ、私と一緒に死ぬ気ある……」っていう、疑問符を「……」で表す原作の独特なニュアンスを、声で表現できてたと思う。本当に凄い。

ミァハという圧倒的カリスマを持った女の子、十代女子の心の隙間に入り込んで離さない魅力、その説得力があった。

圧巻でした。

榊原良子さんはいつもどおりの安定感。

こういう厳格で、社会的にも精神的にも地位の高い女の人をやらせたら右に出る人いないかも。

 

絵は戦闘シーンになるとポリポリするのが気になったかな。

基本的には綺麗。

SFだからこそ手描きの質感があるともっとよかったけど…

redjuiceの絵が質感たっぷりだったから。

拡視はよかった。

キアンの「えう」をどうやって表現するのかすごいビクビクしながら見てたんだけど、透明なグラスに赤い血液が落ちて一気に濁るシーン、これから世界が急転直下の大混乱に落ちていくのを暗示してる感じがしてよかった。

あっあと武装運搬山羊はすごく思ってたとおりでこれこれー!ってなって好きなギミックでした。

ETMLの表現は、もっと他にビビッとくる表現方法があったんじゃないかなというか、それを楽しみに見に行ったから、ちょっとがっかりではあった。

 

で、ラストの改変の話。

賛否両論みたいだけど、見た時はそこまで激しく『改変』だとは感じなかった。

原作の動機は復讐が占めてたけど、映画は愛憎入り混じった結果っていう印象を受けた。

 

「でもね、その世界にあなたは連れていかない。私が好きなミァハのままでいて。ミァハ、愛してる」

 

ミァハはハーモニーのとれた世界へ行くことを一番望んでいたのに、トァンただ一人のエゴによってこの地獄みたいな世界に留まらざるを得ない。

それこそがミァハに対する一番の復讐にもなったはず。

『私が好きなミァハのままでい』させることこそが復讐。原作とはまた違う形の。

愛しているからこそ、愛していた彼女の最上の望みから遠ざける。

原作は冷たい復讐にほんの少しの憧憬という血の通った感情が混ざってる感じだったけど、映画はもう愛しさも憎しみも全部混ざってぐちゃぐちゃになって、トァン自身もミァハという少女にどう接したらいいかわけがわからなくなっていて、ただ向き合わなくてはいけなくて、みゆきちの悲鳴みたいな声にそれが表現されてて、すごくこみ上げてくるものがあった。

だからある意味原作と向いてる方向は同じで、ただトァンの表現の仕方が違っていて、これはこれでひとつの人間のかたちなのかな、という感じがした。

というのも、ハーモニーのとれた世界では、争いも憎しみもなくなるのと一緒に、『愛してる』という感情もなくなる。

誰かを愛しいと思う心もなくなって、全て自明の元に置かれる。

愛しいという感情は、ベクトルが憎しみと違うだけで、激しい感情の揺れであることに違いはないから。

全てが消えてなくなる前に、トァンはその『愛しい』という感情にも別れを告げたのかなと。

個人的な感情こそが個人であることの証だと思う。私が思っていることを他の人がそっくり真似することはできない。

ミァハに憧れるトァンの気持ちはトァンだけのもの。

だからこそ『さよなら、わたし』なのかと。

 

見終わったあとはなんだか身体の中がぽっかりと空っぽになった感じで、あんまり何度も繰り返し見たい映画ではない。

最後、ハーモニーのとれた世界があまりに美しかった。

「私」が「私」であることの意味。

ちょっとだけ漫画版ナウシカのラストを思い出す。

浄化されて憎しみも争いもない世界をナウシカは拒絶したけれど、ハーモニーの人類は次の領域にシフトしちゃうんだよな。

どっちがいいんだろう。

『愛してる』の必要ない世界は、すごくかなしいとは思うけれど。

 

EGOISTのGhost of a smileがぴったりだった。予告の時点からやばかったんだよなあ…

しばらくずっと頭の中で鳴ってた。

女の子たちによって語られるハーモニーという世界に、chellyさんの声はものすごく親和してた。

Ghost of a smileがまたラブソングだから…

『君』と『僕』がいて『愛してる』のある世界は、ハーモニーの世界からは失われたんだなあって思うととても苦しいED。

 

原作の魅力を余すところなく伝えられてるとはとても言えないけど、それでも見たあとにすごく残る映画であったことは確か。

 

残るは虐殺器官。いつ公開なのかなー。

今の前売り使えなくなるって知らなくて、しかも払い戻し12月31日までっていうのも知らなかったから払い戻し損ねちゃったけど、払い戻すと今のムビチケも回収されちゃうらしいからまあいいや。

今のデザインも残しておきたい。

ちゃんと年内に公開されますように。